わたしたちの生活に欠かせないインターネットは、障害者の方にとっては使いづらいと感じている方が多く、全ての人が平等に利用できるものではありません。
そこで先日成立した「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」では、障害者の方がスムーズに十分な情報の取得、情報の発信ができることが明記されました。
今回は、この障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法について、わかりやすく解説していきます。
障害者が抱える「情報格差」にはどのようなものがある?

障害者がインターネットを活用することができれば、仕事や学習・生活で非常に役に立ちます。
例えば、出勤や通学することが難しいのであれば、リモートワークや通信教育を選ぶことができます。
また、買い物をすることが難しければ、食料品や日用品などをインターネット通販で購入して自宅まで届けてもらうことが可能です。
離れた家族や親戚・友人とも、テレビ電話やSNSなどを活用して繋がることができますし、災害情報をいち早く入手して備えることも可能になります。
しかし実際には、障害者の方がインターネットを利用していることは少なく、そこにはさまざまな使いづらさや課題があります。
ここからは内閣府の調査結果から、障害者の方の情報格差について解説していきます。
障害者にとってインターネットは使いづらい
内閣府が平成21年度に行った「障害者施策総合調査」によると、インターネットを利用している人は52.2%、利用していない人は46.2%と、ほとんど差がないことがわかります。
なぜ障害者の方はインターネットを利用していないのかについて同調査では質問を設けており、最も多かったのが「情報流出がこわい」が40.0%、「インターネットによる悪徳商法がこわい」が30.0%、「機器や通信にかかる費用が高い」が28.4%となっています。
この点は、情報通信に関して正しく学ぶことで今後改善することができますが、同調査ではインターネットがそもそも使いづらいという意見も散見(さんけん)されました。
- 「画面の表示やデザインが見えづらい(13.7%)」
- 「書かれている内容が難しい、わかりづらい(15.7%)」
- 「キーボードや周辺機器、ソフトウェアが操作しづらい(15.3%)」
- 「音声が聞きづらい、わからない(10.3%)」
- 「点字ディスプレイ、ジョイスティック、読み上げソフト、その他の補助機器・ソフトウェアの開発普及や操作性が不十分(9.5%)」
このように、障害者にとってインターネットは使いづらく課題を抱えていることがわかります。
支援を「何も利用していない」人が72.2%
インターネットを利用していない障害者の方が多いですが、仕事や学習・生活においてインターネットは必要不可欠の世の中になっています。
障害者の方が積極的にインターネットを利用できるように、「ITサポートセンター」のような支援サービスが設けられていますが、「何も利用していない」人が72.2%と多い傾向にあります。
情報格差は時に命の危険を伴う
このような情報格差は、ときに命の危機を伴います。
例えば、災害情報を得ることができずに避難が遅れてしまったり、電話でのやりとりが難しい聴覚障害者の場合は、救急車や消防車・警察などの緊急通報ダイヤルを利用できません。
このような問題を受け、2022年5月19日に成立した「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進(しさくすいしん)法」では、障害者の方が情報の取得や利用、意思疎通に関する施策を総合的に推進する旨(むね)が明記されています。
障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法が施行

障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法については、各ニュースサイトで情報を得ることができますが、表現が難しくなかなか内容が理解できないという方が多いと思います。
そこでここからは、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法について、わかりやすく解説していきます。
適した方法で等しく情報が得られる法律
「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」をわかりやすく説明すると、「障害の程度に応じて、さまざまな情報をスムーズに、そして十分に得られるように環境を整えましょう」という法律です。
障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法では、手話や字幕、点字の提供などで、情報分野のバリアフリー化を図(はか)ります。
情報を得るための機器の開発や普及・利用の促進(そくしん)や、防災・緊急通報の体制整備を義務づけます。
また、これらの施策に対して、政府は法的に、財政的に支えることも明記されており、障害者の方がスムーズで十分な情報取得を、国を挙げてサポートする法律になっています。
情報を発信する際にも手段を選択できるようになる
「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」では、障害者本人が、障害の種類や程度に応じて情報を取得する手段を選択できる他に、情報を発信する際もその手段を選択できる基本理念が明記されています。
情報の取得、情報の発信にさまざまな選択肢があれば、障害者自身が障害の程度に応じて、自分に合った情報取得・発信方法を選ぶことができます。
実際に取り組まれているアクセビリティ
「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の成立を受けて、各公共サービスやスマートフォンの機能では、さまざまなアクセシビリティが取り入れられています。
例えば、OHK岡山放送では、日常のさまざまなものに手話で説明を付けるという新しい「岡山モデル」を考案(こうあん)しました。
【参照】岡山放送 https://www.ohk.co.jp/data/1123/pages/
タオルの脇にあるQRコードをスマートフォンで取り込むことで、商品の説明が手話と字幕で表示される他に、絵画を鑑賞する際もQRコードを読み取ることで、絵画の説明を手話動画で見ることができます。
この他には、Appleでさまざまなアクセシビリティを利用することができ、例えば聴覚障害者の方を対象としたアクセシビリティでは、ライブリスニング機能を使うことで、iPhone、iPad、iPodtouchがリモートのマイクになり、「Made for iPhone」補聴器やAirPodsにサウンドを送ることができます。
【参照】iOSの聴覚アクセシビリティ機能|Apple https://support.apple.com/ja-jp/HT210070
さらに、110番への緊急通報の際は、警視庁の専用緊急通報アプリ「110番アプリ」で、写真を添付してチャット形式で最寄りの警察署に緊急通報することができ、119番では「Net119緊急通報システム」を利用することで、テキストチャットで詳細を伝えることができます。
「110番アプリ」「Net119緊急通報システム」については、以下の記事で詳しく解説しています。

このように、公共サービスや生活に欠かせないスマートフォンで、障害の状態や程度に応じたアクセシビリティが利用できるようになっており、今後さまざまなサービスや製品で情報アクセシビリティが向上すれば、障害者の方が自分に合った方法で、手軽に情報の取得や発信ができるようになるのではないでしょうか。
まとめ

障害者の方にとって、現状のインターネットは使いづらく、利用したくてもできないという方が多くいらっしゃいます。
そこで2022年5月19日に、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」では、障害者の方がスムーズで十分な情報を得られるようにしようという法律が成立しました。
現状では、さまざまな公共サービスや生活に欠かせないスマートフォンで障害の状態に応じたアクセシビリティを利用することができるようになっています。
障害者の方も、どのようなアクセシビリティがあるのか調べておくと、必要なときにスムーズな利用ができるようになりますので、ぜひ今回ご紹介した内容を参考にしてみてください。