法律では平等条項を置くものが多数ある中で、令和の時代になっても障害者への差別はまだなくなっていないのが現状です。
具体的にどのような差別があるのかというと、聴覚障害者をはじめとする障害者に対する「欠格(欠落)条項」です。
今回は、聴覚障害など障害によって資格や免許の取得が制限される「欠格条項」について、わかりやすく、そして詳しく解説していきます。
聴覚障害者などへの法律上の「欠格条項」とは?

聴覚障害者など様々な障害を抱える方は、「法律上の差別」と「事実上の差別」のどちらか、あるいは両方を受けることがあります。
「法律上の差別」では、聴覚障害など障害を理由に資格や免許の取得を制限する「欠格条項」が有名です。
この欠格条項とは、1999年に政府方針が見直されるまでは当たり前に存在していて、「目がみえないもの、耳がきこえないもの、口がきけないもの、…には免許を与えない」といった門前払いのような欠格条項がありました。
政府の見直しによって、63制度の約半数が制度の見直しが進められるようになり、2001年の通常国会で提出、可決・成立されました。
変わったのは、以下の2点の文章を削除したということです。
- 受験についての障害者欠格条項は削除
- 「目がみえないもの、耳がきこえないもの…精神病者には免許を与えない」のような、障害名や病名をあげて「免許を与えません」とする条文の削除
障害や病気を理由に免許や資格の受験を拒否されなくなりましたが、「相対的欠格」と「絶対的欠格」の2つに分けられ、平等とされるようになりました。
では、この「相対的欠格」と「絶対的欠格」とは、どういう意味なのでしょうか?
「相対的欠格」とは?取得できる免許や資格
「相対的欠格」とは、「障害や病気を抱えていても資格や免許の受験や取得ができるけど、資格を与えないことができる」などの表現です。
つまりどういうことなのかというと、「場合によっては資格や免許を剥奪(はくだつ)することができる」という意味です。
さらに簡単に相対的欠格を説明すると、「条件付きで資格や免許の取得を認めるけど、条件を満たさないと資格や免許をあげない・剥奪できる」ということになります。
ここで言う「条件」とはどういうものなのかというと、有名なもので自動車免許の相対的欠格をあげてみましょう。
聴覚障害者の方の場合、補聴器を装着して10m離れて90dBの警音が聞こえることで、普通免許をはじめ大型免許や中型免許など幅広い運転免許を取得できるようになりました。
しかし上記の条件を満たすことができない場合は、ワイドミラーや補助ミラーを車に取り付けて、聴覚障害者標識を表示することで、普通免許や準中型免許を取得できるようになっています。
【参照】聴覚に障害がある方の運転免許取得等について|徳島県系
他には、以下の資格や免許に対して「相対的欠格」つきで取得ができるようになりました。
- 歯科衛生士免許
- 診療放射線技師免許
- 医師免許
- 歯科医師免許
- 言語聴覚士免許
- 救急救命士免許
- 保健士
- 助産師
- 看護師
- 准看護師免許 など
これまでのように「受験を認めない」「資格や免許を認めない」と表記されなくなりましたが、「相対的欠格」が設けられることによって、わかりにくさや不安、社会の差別偏見が強くなることなど大きな弊害(へいがい)になっています。
「絶対的欠格」とは?事実上の絶対的欠格は存在している
「相対的欠格」が、「条件を満たせば受験や資格・免許の取得を認める」「だけど場合によっては剥奪することができる」としている一方で、「絶対的欠格」とは「そもそも認めない」という意味の言葉です。
よりわかりやすく言うと、「どんな事情があっても例外を認めません」「一律で絶対にダメ」ということになります。
平成15年度時点では、薬剤師免許や技師装具士免許、臨床検査師、衛生検査技師免許、毒物劇物取扱責任者などで、絶対的欠格条項を廃止しています。
絶対的欠格を設ける資格や免許はほとんどなくなりましたが、「事実上の絶対的欠格」であることが多くあります。
事実上の絶対的欠格とはどういうことなのかというと、例えばモーターボートなど小型船舶の資格は法律上で障害者の取得が禁止されていませんが、免許を取得するためには身体検査に合格することが前提になっています。
この身体検査では、聴力検査に関して厳しい規定があるので、事実上免許を取得できる聴覚障害者の方はごくわずかです。
教師や保母などでも、聴覚障害を理由に免許の取得を禁止しているわけではないので、法律上では免許を取得して、学校の先生や保育園の先生になれる可能性が示されています。
しかしそもそも聴覚障害を抱える方が、教員免許を取得するために入学する教員養成大学や教員養成学部に入学すること自体が難しく、ごく一部の大学や学部でのみでしか入学できないという現実があります。
保母資格では、子供とのコニュニケーションに音楽が重要と考えられているため、保母国家試験でも教師と同じく多くの制約があります。
このように絶対的欠格は設けていない、ほとんどなくなったけど、事実上の絶対的欠格がある資格や免許がまだまだ多く、聴覚障害者の方をはじめとする障害や病気を抱える方の可能性が広がらない原因になっています。
【参照】聴覚障害者に対する資格制限|障害保健福祉情報システム
【参照】聴覚障害者が就けない職業|神奈川県聴覚障害者福祉センター
聴覚障害者など障害者を守る法律の下での平等とは?

冒頭でお話ししたように、法律上では「障害を抱えている人、抱えていない人すべてが平等であるべきだ」という原則を規定しています。(憲法14条)
この法律の下の平等とは何か?というと、「障害を抱える人とそうではない人が全て同じように」というわけではありません。
例えば、聴覚障害者の方は補聴器を装着することで日常生活を円滑(えんかつ)におくれます。そのため福祉政策で補聴器購入費の助成などがありますが、これは健常者に対する差別にはなりなせん。
平等とは、「何もない状態で何かを行うことが難しい方」が、何か補助を受ける・身につけるなどすることで正常に行うことができるのであれば、「何もない状態で何かを行うことが難しい方」と「何もなくても何かを問題なく行える方」が平等になると言えるのではないでしょうか。
これは受験や資格・免許に設けられている「相対的欠格」「絶対的欠格」にも言えることで、例えばまったく目がみえない人が車を運転するのは、今の自動車技術では危険なので受験や免許の取得を許すわけにはいかないのは、多くの方が納得できるでしょう。
しかし耳がきこえないこと、口がきけないこと、目がみえないこと、精神障害であること、知的障害であることと、資格や免許の取得を制限することに合理性がない場合はどうでしょうか。
障害や病気の程度は個人差が大きいので、対策をこうじれば問題なく行えることに対する資格や免許の取得制限は、少し疑問を感じる方が多いのではないでしょうか。
法律によって、あるいは事実上の問題で可能性が広がらない、広げることができないというのは、「多様性を認める」ように動き始めている現代において大きな課題になってくるでしょう。
まとめ

聴覚障害者の方をはじめ、かつては障害や病気を理由に受験や資格・免許の取得を認めないとする欠格条項が当たり前に存在していました。
政府方針の変更によって、1999年から「受験や資格・免許の取得を認めない」とする一文が削除されるようになりましたが、「相対的欠格」と「絶対的欠格」が代わりに設けられるようになりました。
相対的欠格は、条件つきで資格や免許の取得を認めるけど、場合によっては剥奪できるというもの。
絶対的欠格は、どんな理由があっても例外を認めずに資格や免許の取得を認めないというもの。
絶対的欠格はほとんどなくなりましたが、身体検査がとても厳しい、資格や免許を取得するための学校や学部が制限されるなど、事実上の絶対的欠格がまだまだ多く存在しています。
多様性を認めるように動きつつある現代では、このような事実上の絶対的欠格が今後大きな社会の課題になってくるでしょう。
もし事実上の絶対的欠格がなくなれば、障害や病気を抱える方の可能性は、もっと広がるはずです。