手話通訳士と手話通訳者は、同じような存在だと思われることが多いですが、実際には明確な違いがあります。
手話通訳の仕事を目指す方の多くが、手話通訳士ではなく手話通訳者になるために、「手話通訳者全国統一試験」を受験する人が多い。
そこで今回は、手話通訳士と手話通訳者の違い、手話通訳者全国統一試験の内容や難易度、合格後の就職先について解説していきます。
手話通訳者・手話通訳士とは?それぞれの違いやできること

手話の通訳を行う方は「手話通訳士」と呼ばれることが多いですが、円滑なコミュニケーションが手話で行える手話通訳は大きく分けて「手話通訳士」と「手話通訳者」に分けられます。
ここからは、手話通訳士と手話通訳者の違いと、それぞれのできることについて解説していきます。
手話通訳者と手話通訳士の違い
手話通訳者は、それぞれの都道府県で認定された手話通訳を行う人のことをさします。
後述しますが、都道府県が認定した全国手話研修センターが実施する「手話通訳者全国統一試験」に合格して、都道府県の独自審査に通過することで手話通訳者になることができます。
一方で手話通訳士とは、厚生労働省が聴力障害者情報文化センターに実施を委託している「手話通訳技能認定試験」に合格して、聴力障害者情報文化センターに登録した手話通訳士のことをさします。
手話通訳士は、厚生労働省の認定する試験を合格することで得られる公的資格を持つ人のことですが、手話通訳者は広い意味合いで手話の通訳を行うことができる人のことをさします。
手話通訳者と手話通訳士ができること
手話通訳者になると、手話を言葉にして翻訳する必要がある幅広いシーンで手話通訳を行うことができます。
しかし資格保有者の手話通訳士のように、裁判や政見放送などの公的な一部のシーンでの手話通訳を行うことができません。
実際には手話通訳士は医師や弁護士のように、その資格がなければできない独占業務ではないので、手話通訳士の資格を持たなくても、手話の通訳の仕事を行うことができます。
手話通訳士の受験は狭き門
手話通訳者、手話通訳士共に、通訳する人の発声と同時に手話で通訳する必要があるので、非常に高度なスキルを求められます。
特に公的資格である手話通訳士合格は狭き門で、平均合格率は約10〜20%と低く、現在活躍している手話通訳士が3,807名(2019年2月時点)なので、日本の人口が約1億2601万人とすると、約0,00003%の希少な存在ということになります。
しかし現状、手話通訳士の資格がなければできない手話通訳は、裁判や政見放送などごく一部のシーンのみなので、手話通訳士という難しい資格試験に合格せず、手話通訳者として活躍している方々の方が圧倒的に多いです。
「手話通訳者全国統一試験」とは?試験内容や難易度

前述したように、手話通訳士は難関資格の一つのため、あえて手話通訳士の資格を取得せずに、手話通訳者として活躍する方も多いです。
その手話通訳者についてもう一度おさらいすると、以下のようになります。
- 手話通訳士になるには、都道府県が認定した全国手話研修センター実施の「手話通訳者全国統一試験」に合格する必要がある
- 手話通訳者全国統一試験に合格後、都道府県独自の審査を通過することで、はじめて手話通訳者になれる
手話通訳者になると、「都道府県認定の手話通訳者」ということになりますが、都道府県認定の制度には法的根拠や統一されたガイドラインがありません。
しかし手話通訳者全国統一試験を受験するためには、「手話通訳者養成課程」を修了、もしくは手話通訳者養成課程と同等の知識や技術がある必要があります。
では、この手話通訳者全国統一試験とはどのような試験内容なのでしょうか?また、難易度や就職先はどのようなところなのかについてここから解説していきます。
手話通訳者全国統一試験の試験内容
毎年10月頃申し込みの締め切りを迎えて、12月上旬に実施される手話通訳者全国統一試験は、都道府県で通訳者として活動を認められる条件となる試験として利用される試験です。
手話通訳者全国統一試験の試験内容は、筆記試験と実技試験の2つに分けて行われます。
筆記試験では、手話通訳に必要な基礎知識や国語力が出題範囲となっており、基礎知識の出題範囲は厚生労働省手話奉仕員や、手話通訳者養成カリキュラムの範囲で出題されます。
国語力の出題範囲は、手話通訳に必要な国語についての基礎知識や総合的な国語力の範囲が出題範囲です。
例えば、発音の仕方や音の区別、アクセントなどや、言葉の意味や類義語、同音異義語など、文の構造、表現方法、文章読解、簡単な文学史などです。
最後に実技試験は、場面における聞き取りや読み取り通訳の実技試験が行われます。
ろう者と聞こえる人の会話場面が4分間の映像で流されるので、ろう者と聞こえる人の会話を実際に通訳を行います。
実技試験で出題される内容は、相談や医療、労働、文化活動などに関する問題になっており、通訳内容はビデオカメラで収録して、採点評価されます。
【参照】2021(令和3年)度 手話通訳者全国統一試験の手引き|神奈川県聴覚障害者福祉センター
手話通訳者全国統一試験の難易度
手話通訳者全国統一試験は、検定試験の全国手話検定試験1級より難しいと言われています。
平成30年度の試験では受験者1762名のうち316名合格なので、合格率は17.9%。
同年の手話通訳士の合格率が9.8%だったのと比べると、比較的合格しやすい試験であることがわかります。
手話通訳者全国統一試験後の就職先
手話通訳者になると、都道府県単位の広域で手話通訳が必要な現場に派遣されます。
また、民間企業や社会福祉法人、特定非営利活動法人などで手話通訳者の求人を出しているケースも増えつつあります。
この場合、施設の利用者や企業に勤める聴覚障害者と健聴者との手話通訳を行うのがメイン業務となりますが、簡単な事務作業も同時進行で行う必要がある場合があります。
まとめ

手話通訳士は難関資格のため、手話通訳士の資格をあえて取得しせずに、比較的難易度が低い手話通訳者を目指す方が多いです。
手話通訳者になるためには、都道府県が認定した全国手話研修センターにて、「手話通訳者全国統一試験」に合格して、都道府県独自の審査に通過する必要があります。
手話通訳者全国統一試験は、「筆記試験」と「実技」の2つの試験内容になっており、毎年12月に試験が実施されます。
手話通訳者全国統一試験に合格すると、都道府県単位で広域に派遣される手話通訳者になることができますが、近年企業や福祉施設で手話通訳者の求人が増えているので、手話通訳者として簡単な事務作業と並行しながら働くことが可能です。