2021年5月に改正障害者差別解消法が成立し、3年間を超えない範囲で施行されることが決まっています。
もし改正障害者差別解消法によって、障害者の方が日々感じている障壁が和らぐのだとしたら、より障害を抱える方と障害者ではない方の両方が生きやすい社会になることが期待されています。
今回は、障害者差別解消法とは何なのか、なぜ制定されたのか、改正障害者差別解消法との違いや合理的配慮とは、合理的配慮のある社会についてわかりやすく解説していきます。
障害者差別解消法とは?

障害者差別解消法の正式名称は「障害を理由とする差別の解消の促進に関する法律」で、障害の有無にかかわらずお互いに人格と個性を尊重し合いながら、共に生きる社会を作ることを目指した法律として制定されています。
障害者差別解消法は2016年4月1日に施行され、2021年5月に改正障害者差別解消法が参議院で可決・成立しました。
令和3年6月4日から起算(きさん)して3年間を超えない範囲内で、政令で定める日から施行されます。
自治体によっては障害者差別解消法とは別に、いち早く障害者差別解消に関する条例を制定・施行しているところもあり、例えば東京都では平成30年10月1日に「東京都障害者への理解促進及び差別解消の推進に関する条例(東京都障害者差別解消条例)」を制定しています。
障害者差別解消法が施行されれば、これまで「できれば配慮できるように頑張ろうね」という範囲の努力義務となっていた、民間事業者による合理的配慮の提供が法的に義務となります。 後述しますが、2021年5月に改正された障害者差別解消法では、この合理的配慮の法的義務化がとても重要なポイントとなります。
【参照】平成28年4月から「障害者差別解消法」がはじまりました|台東区 https://www.city.taito.lg.jp/kenkohukusi/shogai/service/seido/sabetukaisyouhou.html
【参照】障害者差別解消法改正をわかりやすく解説。企業に求められる姿勢とは|ミライロ通信 https://www.mirairo.co.jp/blog/post-20210903
【参照】障害を理由とする差別の解消の促進|内閣府 https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html
障害者差別解消法制定の背景

障害者差別解消法は2006年12月に国連総会本会議で採択された「障害者の権利に関する条約」に基づいて、政府が同条例に署名したことで国内で法整備されました。
ここでいう「差別」とは何なのかというと、諸外国のヒアリングに始まり、差別禁止法の必要性や差別の捉え方、その類型など総論的な議論を踏まえて、雇用や就労、司法手続き、選挙、公共施設及び公共交通施設の利用、情報、教育、日常生活(商品、役務、不動産)、医療の各分野、ハラスメント、欠格事由、障害女性等について検討されています。
例えば、障害を抱えていることを理由に資格が取れないことをさだめた「欠格事由」の廃止や、障害を理由に雇用や不動産の契約の締結を断るなどです。
障害者の方と障害者ではない方に対して、不当な差別的取り扱いを行うことで、障害者の権利や利益を侵害してはいけないと定めたのが障害者差別解消法の目的です。
そのためにも、障害者の方が配慮を受けることができれば、障害を抱えていない方と同じように問題なく行えるためのサポートである合理的配慮を当初は努力義務としていましたが、後述するように改正障害者差別解消法では「法的な義務」として定めています。
障害者差別解消法は改正されて何が変わったの?合理的配慮とは

2016年に施行された障害者差別解消法では、努力義務として定められていた合理的配慮について、2021年の改正障害者差別解消法では「義務」として課されることとなりました。
これまでは企業や店舗など民間事業者に対しては、「できれば合理的配慮をしましょうね」という内容で、国や自治体では義務として課せられていました。
しかしこれからは、国や自治体と同じく民間企業も義務として合理的配慮を行う必要があります。 ここからは、合理的配慮とは何なのか?実際の事例や対応すべきケース、合理的配慮が必要となる2つのケース、求められる事業者への支援について解説していきます。
合理的配慮の具体例
ここでいう合理的配慮とは何のことなのかというと、さまざまな場面で店舗や企業に対して、障害者から何らかの配慮を求められた場合に店舗や企業は過重な負担がない範囲で、社会的な障壁(しょうへき)を取り除く配慮を行わなくてはいけないことです。
例えば、以下のようなことが合理的配慮として求められるようになります。
- 段差の解消…何らかの方法で段差を解消して車椅子の方が店舗を利用できるようにする
- 専門用語を使用しない…知的障害者の方などに対して、理解しやすいように配慮した説明を行う
- オンラインでの対応…異動が困難な方に対して、オンライン通話で対応できるよう環境を整える
これら合理的配慮が義務化されますが、改善や変更を行わなかった店舗や企業に対してすぐに罰則がかせられるわけではありません。
しかし義務となったのに実行しない店舗や企業に対して、行政の厳しい対応が行われることは確かでしょう。
合理的配慮が必要となる2つのシーン
ここまでお話ししてきたように、合理的配慮が近い将来義務化されるなかで、店舗や企業はさまざまな障害者の方が事業所を利用することを想定して待ち構えている必要があるのかというとそうではなりません。
- 障害者の方から何らかの配慮を求められた場合
- 事業者が過重な負担を感じない範囲での提供
合理的配慮が必要なるのは、2つのポイントがあります。
例えば聴覚障害者の方が喫茶店を利用した場合、店員の方が事前に手話講座を受講して手話をマスターしておく必要があるのかというとそうではありません。
手話を習得するのは至難の業なので、事業者の過重な負担に該当することを考えると、ここでは筆談用に一般的なメモ帳やノートとペンをレジ横に設置しておき、聴覚障害者方が筆談が利用できることがすぐにわかるように、レジのカウンターなどに「筆談OKです」と張り紙をしておくといいということになります。
求められる障害者への合理的配慮と事業者への配慮
ここまでお話ししたように、本来誰もが気軽に利用できるべきである飲食店や小売店などの店舗をはじめ、事業者がさまざまな障害を想定して合理的配慮を行うことはとても素晴らしいことです。
しかし実際には障害には個人差が大きく、また事業者が負担しなければならない設備導入費用も莫大(ばくだい)必要となることが想定さます。
そのため国や自治体は補助金制度や、税制優遇、金融支援などの措置を設けるのと同時に、どのような配慮がどうして必要なのか資料の配布を行う、専用の相談窓口・ダイヤルを設けることで、事業者が合理的配慮を行いやすい具体的な環境作りが重要になってくるのではないでしょうか。
【参照】「障害者への差別はなくせるか“法理的配慮”義務化へ」|NHK https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/450266.html
合理的配慮があることでどのような社会になるのか
令和元年度に内閣府が公表している障害者白書によると、肢体不自由や聴覚言語障害、視覚障害、内部障害、不詳の身体障害者が436万人(45%)、発達障害や精神疾患などの精神障害が419万人(44%)、知的障害が108万人(11%)。
これら障害を抱える方の約半数が障害者手帳を申請・交付されており、公共施設や商業施設の一部で割引制度を受けることができます。
これも国による合理的配慮のひとつで、なかなか外出が難しい障害を抱える方が、経済的な面で気軽に外出できるようにと実施されている制度です。
しかしこのような障害者割引制度が利用できる施設でも、古い施設では合理的配慮が行き届いていない場所があります。
例えば段差が多く、スロープがない。あってもとても遠回りしなければならない。点字ブロックが劣化していて補修されていない、目に見えない障害に対して理解や配慮がないなどです。
また内容が複雑な保険や住宅、賃貸住宅などの契約のシーンでは、重要なことが説明されずに省略される、難しい表現・文体・言い回しで説明を行うなどが当たり前にあります。
障害を抱えている方は毎日のように障壁を感じているので、もしこのような障壁が合理的配慮によって和らげば、とても過ごしやすくさまざまなことに対して前向きに生きやすくなるのではないでしょうか。
【参照】令和元年度版 障害者白書|内閣府 https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r01hakusho/zenbun/siryo_02.html
まとめ

2016年4月1日に施行され、2021年5月に改正法が可決・成立した障害者差別解消法は、改正法の成立によってこれまで事業所に対して努力義務だった合理的配慮が、義務として課せられることになりました。
合理的配慮が義務となることで、例えば車椅子の方が段差を乗り上げられない場合は、事業者は簡易スロープなどで段差を一時的に取り除いて車椅子の方が事業所を利用できるように配慮する必要があります。
改正障害者差別解消法施行されることで、特に障害を抱えている方が事業者に対して合理的配慮を求めた場合に、事業者の過重な負担を感じない範囲で事業者は合理的配慮を提供するようになります。
合理的配慮が提供されることで障害を抱えている方の障壁を和らげることができるので、障害者の方がより生きやすい社会になることが期待されています。
しかし事業者は合理的配慮に必要な設備を用意する必要があるので、国や自治体は補助金や税制支援などの支援を用意して、事業者の負担を和らげる施策が求められています。 障害がある方、障害がない方、事業者の3者が気持ちよく改正障害者差別解消法施行に取り組むことで、よりよい社会になるのではないでしょうか。