聴覚障害者の田門弁護士とは?「あなただから話せた」手話と言葉の架け橋になる弁護士

生まれつき耳が聞こえない、会話ができないなかで弁護士になった方が居ます。

東京都で弁護士をされている田門浩さんは、手話と言葉の2つの言語の架け橋となっている弁護士で、手話通訳の方の協力の下、聴覚障害者とは思えないほど手話と言葉の2つの言語でスムーズなコミュニケーションを行います。

今回は、聴覚障害者の弁護士田門浩さんとは?なぜ弁護士を志したのか、聴覚障害者が感じる裁判における障壁(しょうへき)について解説いたします。

目次

ろうあの弁護士・田門浩さんとは

東京・四谷の雑居ビルに入居する都民総合法律事務所に在籍する田門さんは、ろうあの弁護士として活躍されています。

依頼者の8割は健常者で、最初は「本当に会話ができるのか」と不安を抱く方が多いそうですが、事務所の応接室に通されて田門さんの穏やかな表情を見た方は、その不安が消えてなくなるといいます。

ここからは、なぜ田門さんが聴覚障害を抱えながらも健聴者との密なコミュニケーションが求められる弁護士になろうと思ったのかについてお話ししていきたいと思います。

母のように社会的に大変な人の力になりたい

田門さんの耳が聞こえていないことがわかったのは1歳の頃、母親の昭子さんは当初、田門さんの耳が聞こえないのは自分のせいだと思い無理心中を考えたそうです。

田門さんが弁護士になることを決めたには小学校5年生の時、当時は父親の秀一さんを病気で亡くし、母の昭子さんは女手一つで田門さんを育てました。

「母に楽をさせてあげたい」

「自分を産んでよかったと母に思ってもらいたい」

田門さんが中学2年生の頃、聴覚障害を抱えた方が司法試験に合格したことを新聞で知り、「社会的に弱い立場の人々の助けになりたい」と手紙を送ると、便せん3枚にわたって激励(げきれい)の言葉がつづられた返事が届きました。

「一生懸命に勉強して大学に入ることが大事です」

この言葉を胸に、田門さんは独学で勉強を始めます。

高校は普通の高校へ、独学で東大に合格

これまでは聾学校に通っていた田門さんは、「厳しく鍛えた方が良い」と考えて高校は普通の高校に入学しました。

聾学校ではない一般的な高校には、これまで当たり前に居た手話通訳がいません。

田門さんも周囲の同級生や先生もコミュニケーションに戸惑いを感じることが多く、何より先生の授業が聞こえないので、黒板をノートに書き写してあとは独学で問題集を解くことで勉強しました。

その後東京大学に合格し、高校時代と同じ勉強方法で学んでいた田門さんにある日ボランティアで手話通訳がつくようになり、より深く学ぶことができるようになりました。

そして無事大学を卒業して卒業当初は市役所で働いていましたが、働きながら弁護士を志して学ぶことを休まず、8度目の司法試験に合格し弁護士になることをかなえました。

「あなただから相談できた」寄り添う弁護士になった

田門さんと依頼者の会話は、手話と会話の両方で行われます。

まず田門さんが両手を使い手話で話し始めたと同時に、同席していた手話通訳の女性の方が言葉にして依頼者に伝えます。

そして今度は、依頼者の言葉を手話通訳の女性の方が手話にして田門さんに伝えます。

これだけ見るととても時間がかかる会話だと感じる方が多いですが、実際には健聴者同士の会話と変わらない非常にスムーズなコミュニケーションを実現しており、これは裁判でも問題なく行われています。

田門さんは耳が聞こえませんが、依頼者の微妙な表情の動きやうなずき方などのしぐさで、本当に言葉を理解したかどうかを見抜く鋭い眼光を持っています。

田門さんのところを訪れる方の相談内容は、多いもので債務整理や交通事故の被害、離婚や相続、耳が聞こえない方の消費者被害。

人が弁護士に頼るのはとことん困ったときがほとんどで、相談する側が引け目を感じていたり、すべてを赤裸々に話すことをとても悩んで相談に訪れます。

田門さんは「弁護士は本来、人間の弱さを知り、相手の心の奥底を開く存在でなければならない」と考えているので、難しい専門用語を使って「こうすればいいんだ」と意見を押しつけるようなことはしません。

だからこそ田門さんのもとを訪れた方は、「あなただから話ができた、よかった」と伝えることが多いそうです。

聴覚障害者が裁判を行う上での課題

聴覚障害者の方が裁判を行う際は、主に言葉の障壁(しょうへき)を乗り越える必要があります。

ここからは聴覚障害者の方が裁判を行う際に感じる障壁と、健聴者の言語日本語と手話との根本的な違いについてご紹介いたします。

手話と日本語は言語としての前提が根本的に違う

聴覚障害者と健聴者との間でのコミュニケーションは、手話か筆談のどちらかになることが一般的ですが、手話は専門的な知識が必要なので、筆談でコミュニケーションをとるケースが多いです。

現代ではノートとペンを使った筆談から、スマートフォンの専用アプリやメモ機能などを活用して手軽に筆談ができるようになりました。

しかしこの筆談は、「日本語がわかれば誰でもできる」というわけではありません。

なぜなら聴覚障害者の方がメインで使用する言語である手話と日本語では、言語としての前提が異なります。

例えば手話には「てにをは」という助詞がなく、指の向きなどで主語や目的語の表現を行い、同じ意味でも手を動かすスピードや形のちょっとした違いで微妙なニュアンスを伝えます。 耳が聞こえないということは、目で見た限りでしか言葉を理解することができないということなので、聴覚障害者の方のなかには新聞や書籍の内容をうまく理解することが難しい方も少なくありません。

手話がメインの言語の方が日本語で詳細に伝えることの難しさ

自分がいつどこでどのような被害を受けて、最終的にはどのような結末を希望しているのか日本語で伝える必要がある裁判では、聴覚障害者は圧倒的に不利になります。

2017年3月に聴覚障害者の女性の方が職場で受けた嫌がらせなどを東京地裁に訴えた民事裁判では、原告の聴覚障害者の女性の陳述書(ちんじゅつしょ)には以下のような記述がありました。

  • 健聴者と比べると読み取りが難しく、長い文章、複雑な文章、主語がない文章などは正確に理解することができません。
  • 考え事をするとき、頭の中で手話をして考えています。(中略)私は手話、つまり手の形や動きのイメージで考えています。たとえていうなら、(中略)チャップリンの無声映画を見ている状態で考えているのです。

このように、聴覚障害者の方が日本語で自分の訴えを詳細に伝える必要がある場合は、耳が聞こえないということに対して理解がある方のサポートが欠かせません。

このようなケースに対応できる弁護士としても、聴覚障害者の弁護士田門さんは手話と日本語の架け橋として活躍されています。

【参照】障害者差別やめろ…ろうあの労働者が立ち上がって戦った|弁護士ドットコム https://news.line.me/issue/oa-bengo4com/db920f87cd3e

まとめ

聴覚障害者の弁護士・田門さんは、手話通訳をかいして手話で健聴者の依頼者とコミュニケーションをとりますが、非常にスムーズで法廷でも問題なくコミュニケーションがとれています。

聴覚障害者の方が裁判を行う際は、どこでどのような被害を受けたのかなどを詳細に説明する日本語力が求められますが、これは聴覚障害者にとっては非常に難しいことです。

そのため聴覚障害者の方が困ったときに気軽に相談できる田門さんのような弁護士が、今後増えていくことが求められています。

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